昔から多くの女性を悩ませる疾患、骨盤臓器脱。このページでは、骨盤臓器脱の概要や治療法など、全般的にお伝えします。
骨盤臓器脱とは?
骨盤臓器脱とは、骨盤の中にある膀胱や子宮といった臓器が、下に降りてきて膣(ちつ)から出てきてしまう病気です。
骨盤臓器脱は、単一の臓器ではなく、合併して複数の臓器が出てくることが多くあります。子宮や膀胱のほかに出てくることがある臓器は、直腸や小腸などです。それぞれ「膀胱瘤」「尿道瘤」「子宮脱」「直腸瘤」「小腸瘤」と呼び名がありますが、骨盤内の臓器が出てきた状態を総称して「骨盤臓器脱」と呼んでいます。
昔の女性の間では「なすび」と呼ばれていました。古くから中高年の女性を悩ませている疾患です。
どのような人がかかる病気?
60代以上の女性が多く発症していますが、40代で発症する人もいます。出産を経験した人に多く、特に複数人の子どもを生んだ人や3500グラム超の大きな赤ちゃんを生んだ人、高齢出産、会陰切開をした人などは発症しやすいと言われています。帝王切開ではなく経腟分娩を経験した人は、特に骨盤臓器脱のリスクが高くなります。
普段から重い荷物を持つことが多い人、慢性的な咳やくしゃみで腹圧がかかることが多い人も発症しやすい傾向があります。
どれほど多くの人がかかっている?
日本では、羞恥心などから受診しない人が多くいると考えられ、正確な患者数は把握できていません。米国の報告によると、女性のうち75%が骨盤臓器脱の要因をもっていて、実際に臓器が外に出てくる人は、このうちの5%と言われています。
病気自体の認知度は低いものの、多くの患者様がいると考えられ、高齢化社会である現代においては国民病ともいえるような一般的な病気です。
恥ずかしさから家族に言えず、一人で悩んでいる人も一定数いると考えられます。治療は早めに始めるに越したことはありません。症状に気づいたら専門医を受診して、治療を開始しましょう。
どのような症状がある?
骨盤臓器脱は徐々に進行していきます。患者様が違和感を覚えるきっかけは、以下のようなシーンです。
- 股に何かが挟まっている感じがする
- お風呂で洗うときに手に何かが触れる
- 朝より夜の方がトイレに時間がかかる
- 尿失禁がある
進行していくと以下のような症状が出てきます。出てきている臓器によって、症状は異なりますので、すべて当てはまらなくても骨盤臓器脱の可能性があります。
- 排尿や排便が難しくなる
- 下着にこすれて出血する
- 痛みで歩行が困難になる
- 性交痛がある
- おりものが増える
- 重い感じがする
骨盤臓器脱が日常生活に与える影響
骨盤臓器脱にかかって臓器が体外へ出てくると、日常生活にも影響してきます。進行すると常に臓器が出てきた状態で、露出している臓器の表面が下着や皮膚と擦れます。出血や痛みを生じ、歩行すら困難になってしまう場合があります。
長時間立っているのが苦痛になるので、掃除や洗濯、料理などの家事のシーンでも思うように動けなくなり、座っているしかないような状態となって苦痛を訴える患者様もいます。
他人に相談しにくく、人前でも話題にしにくいので引きこもりがちになってしまい、社会とも遠ざかってしまう人が多い現状があります。
骨盤臓器脱の医療の現状
患者様が受診に至らない理由としては、恥ずかしさから受診をためらうことが考えられます。日本では骨盤臓器脱という疾患自体の認知度はまだまだ低く、家族など身近な人に相談しても理解してもらえないのではないか、と人知れず悩んでいる方も多いのが実情です。また、認知度が低いために、症状があっても患者様本人が病気だと気づいていないケースもあります。
羞恥心や認知度の低さの他に、地域によっては専門医に診てもらえないという問題もあります。東京都内や地方都市ならなんとか専門医が見つかりそうですが、対応できる専門医が存在しない地域もあります。現在の日本では、骨盤臓器脱を診る専門医は足りていません。
また、一般的な治療方法はリングペッサリーもしくは手術であり、限られた選択肢です。将来赤ちゃんを生みたいと希望する女性にとっては、さらに治療法が限られますし、がんの治療や糖尿病などの理由で手術ができない人もいます。
骨盤臓器脱の原因
出産経験がある女性に多い疾患ですが、出産のほかにも、加齢、婦人科領域での手術、肥満や慢性の咳・くしゃみなどが原因になります。
出産
骨盤の中の臓器は、多くの筋肉やじん帯、膜などで支えられています。これらが妊娠や出産によってダメージを受けると、臓器を支える力が弱くなってしまいます。
骨盤にあるたくさんの筋肉は、総称して「骨盤底筋」と呼ばれています。骨盤底筋は臓器を支える重要な筋肉群です。出産によって伸びてしまい、ゆるんだ状態になると臓器が膣内に落ち込み、更に進行すると体外に出てきやすくなります。
出産経験がある人の中でも、3人以上の多産や大きな赤ちゃんを生んだ経験、出産に長い時間がかかった経験がある人は、特に骨盤底筋にダメージを受けている可能性があります。
加齢
出産時にダメージを受けた筋肉やじん帯は、いったんは回復します。しかし、加齢によって筋力が低下してくると、臓器を支える力が弱くなり、骨盤臓器脱の原因になります。
閉経すると女性ホルモンが低下して、骨盤内の臓器を支える組織の力もさらに弱くなります。骨盤臓器脱は、特に閉経後の女性に多く見られる疾患です。
婦人科領域での手術
子宮筋腫の治療のために子宮を摘出した方や、子宮体がん(子宮内膜がん)の治療のため広汎子宮摘出術を受けた方も、骨盤臓器脱になるリスクがあります。
摘出する前は支えあっていた子宮や周辺の組織が、子宮を取ることで支えがなくなり、子宮を取った分おなかの中に空洞ができた状態なので、他の臓器が落ち込んできます。
肥満や慢性の咳、便秘で力む
肥満になると、骨盤内の腹圧が高くなり、骨盤底筋に負荷がかかるため、骨盤臓器脱になりやすくなります。体重の管理が必要になります。
また、慢性的な咳や、便秘で強くいきむことにより、骨盤内の臓器を押し出すことになってしまいます。骨盤臓器脱を進行させる要因にもなります。
骨盤臓器脱の種類
先述のとおり、骨盤臓器脱は、骨盤内の臓器がでてくる病気の総称です。具体的には、膀胱や子宮、直腸、小腸などが出てくることがあり、それぞれに呼び名があります。
各臓器が出てきた場合の症状を見ていきましょう。
膀胱瘤(ぼうこうりゅう)
骨盤臓器脱の中で最も多いのが、膀胱瘤です。その名の通り、膀胱が下がってきます。多くの場合は尿道が一緒に下がる、尿道瘤も同時に現れます。
膀胱はご存じのとおり尿がたまる場所ですので、尿がたまると水風船のように膨らみ、弱った膣壁を押しながら、尿の重みで下りてきます。膀胱瘤は、尿がたまった状態で立っている時に症状が現れやすいです。
下腹部や陰部の違和感、尿失禁が初めのころの症状です。進行してくると尿道よりも膀胱の方が下がってきて、残尿感がある、尿が出しづらいなどの症状が現れます。膀胱炎を繰り返す場合も膀胱瘤が疑われます。
排尿が困難になると、腎臓から膀胱への尿の流れが阻害されて水腎症や腎不全になるリスクがあります。
子宮脱(しきゅうだつ)
軽度の場合は自覚症状がほとんどなく、健診など別の理由で婦人科を受診して医師から知らされることもあります。子宮が下がってきている状態は子宮下垂といいます。
子宮が膣に落ち始めて少し進行すると、股に何かが挟まっているような感覚があったり、座った時に何かが引っ込み、立つと何かが落ちてくるような感覚があったりします。
膣口のすぐ内側まで下がってきたころには、排尿が困難になります。さらに進行すると子宮が体外に脱出し、完全に子宮が出てきてしまうこともあります。
直腸瘤(ちょくちょうりゅう)
直腸が落ちてきて、膣の壁ごと直腸が出てきます。骨盤底筋の中でも、特に直腸付近の筋肉が弱っているときに起こりやすい疾患です。排便のときに膣の方向へ直腸が飛び出し、力んでも膣側へ力が加わります。症状としては、便意をもよおしてもうまく排便できなかったり、便が残った感じ(残便感)がしたりする人が多いです。
人によっては、指で膣を押さえながらでないと排便できず、毎回排便のたびに手を汚すことに大きなストレスを感じる方もいます。
直腸瘤は、膣から臓器が出てくる疾患ですが、肛門から出てくる場合は直腸の支持が弱くなることで発症する直腸脱という疾患です。
小腸瘤(膣断端脱)
小腸瘤は、子宮体がん(子宮内膜がん)や子宮筋腫の治療のために子宮を摘出する手術(子宮摘出術)を受けた人に発症する例が多く見られます。
また、小腸瘤は、膣断端脱とも呼ばれます。膣断端とは、手術で切除した組織の切り口もしくは残った部分です。
手術で子宮を取ったのに、どうして出てくるのかと疑問に思われるかもしれませんが、膣断端も支えがゆるむことで出てきます。子宮を摘出することによって空洞ができ、膣の一番奥の部分が子宮の上にあった小腸を巻き込ようにして下がってきます。
骨盤臓器脱の治療方法
治療には、外科的療法(手術)と保存的治療法があります。
骨盤臓器脱は、薬や日ごろの生活習慣の改善では治りませんので、根本的に治したければ手術が必要になります。保存療法とは、現状を維持したり、進行を遅らせたりするための治療法です。
それぞれの治療法について、詳しく見ていきましょう。
まず、手術は以下のように複数の種類があります。
手術の種類
手術の種類 | 手術の方法 | 特徴 |
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子宮摘出術 | 下がってきた子宮を摘出する |
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膣縫縮術 | ゆるんだ膣の壁(筋膜)を縫って縮める |
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従来法 (子宮摘出と膣縫縮術を 同時におこないます) | 子宮を摘出した後、 膣壁を縫い縮める |
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経膣メッシュ手術(TVM) | 弱っている膣の壁を メッシュのシートで補強する |
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膣の閉鎖 | 膣の前側と後側を縫い合わせて 臓器が落ちるのを防止する |
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腹腔鏡下仙骨腟固定術 (LSC) | おなかに数カ所の小さな穴を開け、 腹腔鏡を使いモニターを見ながら、 下がった膣をメッシュで固定する |
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ロボット支援下仙骨膣固定術 (RSC/RASC) | 仙骨膣固定術(下がった膣をメッシュで 固定する手術)を、 手術の支援をするロボットを使い、 安全かつ効率的に行う |
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真皮移植法:永尾法 | メッシュの代わりに 患者様自身の真皮を 使って臓器を吊り上げる |
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骨盤臓器脱の手術にはさまざまな種類があります。手術のメリットやリスクを理解して、患者様一人ひとりの状況に合った手術を選択することが大切です。症状や年齢、体力などを考慮して、医師が適切な手術を判断します。
術式(手術の種類)をいくつかピックアップして詳しく説明していきます。
従来法
従来法は、婦人科で最もよく行われている手術方法で、メッシュを使わない手術です。
子宮を摘出して、その後膣壁を縫い合わせます。異物を体内に入れるわけではないので、合併症の心配は少ないですが、懸念されるのは再発のリスクです。
もともと弱っていた組織を縫い合わせるので、徐々に緩んできて、膀胱や直腸、小腸などが出てきて再発となるケースがあります。
経腟メッシュ手術(TVM手術)
シート状のメッシュを挿入して、ハンモックのように臓器を支えるようにするのが経腟メッシュ手術(TVM)手術です。
おなかを切る(開腹する)ことも、臓器を切除することもなく、患者様の負担は比較的軽い手術で、かつてはスタンダードな手術方法でした。
しかし、手術中に膀胱や尿道などを損傷したり、手術後には感染やびらん、メッシュの露出があったりといった問題があります。FDA(米国医薬食品局)というアメリカの機関が、2008年と2011年に注意喚起を出し、経腟メッシュ手術に使用する外科用メッシュのすべての製造業者に、販売と流通を禁止しました。現在アメリカをはじめ欧米諸国では、TVM手術は行われていません。
日本では、TVM手術を行わなくなった医療機関もありますが、日本製の「ORIHIME」というメッシュを使って、安全に手術を行っている医療機関もあります。
腹腔鏡下仙骨固定術(LSC)/ロボット支援下仙骨膣固定術(RSC/RASC)
仙骨膣固定術とは、メッシュを使って、子宮頚部(子宮の下の方から膣につながる部分)と仙骨(お尻の骨)に固定するという手術です。
腹腔鏡を使用する方法と、ロボットを使用する方法があります。
腹腔鏡を使った手術では、大きくおなかを切り開くのではなく、小さなカメラ(腹腔鏡)で体の中の様子をモニター画面に映し出します。おなかには数か所小さな穴を開け、穴から手術道具を入れて画面を見ながら操作する方法です。
腹腔鏡下仙骨固定術(LSC)は、メッシュで固定するため再発率が低く、腟を切開しないため術後でも性交渉への影響が少なくなります。低侵襲(身体への負担が少ない)で骨盤臓器脱のスタンダードな手術法です。
しかし、腹腔鏡を使いながら縫合操作を行うことに医師が習熟していなければならず、比較的難しい手術です。一部のエキスパートの医師は1時間や2時間で手術が可能ですが、通常は3時間から6時間といった長時間の手術になり、そういった面では患者様の身体への負担も大きくなります。
ロボットを使用する手術(RSC/RASC)では、ロボットが自動で手術を行うわけではなく、手術を支援するロボットを使って医師が手術を行います。
高性能な手術用ロボットはとても精密で操作性が良く、腹腔鏡を使って行う手術よりも効率的にすすめることができます。操作性が良いので、比較的短い期間で医師が習熟できることもメリットです。
腹腔鏡下仙骨固定術(LSC)もロボット支援下仙骨膣固定術(RSC/RASC)も、保険適応の範囲内です。再発のリスクが少なく、術後の痛みも少ない現在スタンダードになりつつある手術方法ですが、実施している医療機関が少ないことがデメリットです。また、手術中は頭を低く保った状態で行うので、緑内障や動脈瘤がある方は手術を受けられません。
真皮移植法:永尾法
患者様本人の脇腹の真皮を7×10センチほど切り取り、それを骨盤内の靱帯に縫い付けて臓器の位置を修復します。保険の適応範囲内です。
人工メッシュを使わない骨盤臓器脱手術方法に、真皮移植法を追加した、安全性と有効性の高い方法です。
従来式は、異物を使わないので安全性は高いですが、再発のリスクが高い。TVM手術では効果は確実ですが、腟の傷痕からのメッシュ露出や、性交時の痛みなどの合併症が多い。LSC手術は、腟の一番奥の部分にメッシュを縫い付けるので合併症は少ないですが、手術が大がかりになります。
永尾法では、手術時間は約2時間(LSC手術の約半分)で患者様の身体への負担が少なく、患者様本人の真皮を移植するので感染症のリスクがかなり軽減できるのが特徴です。また、異物を体内に挿入することや腹腔鏡手術を「怖い」と感じる方がいるかもしれませんが、永尾法では異物挿入はありませんし、腹腔鏡も使用しません。
真皮に裏面(膀胱側)と表面(膣粘膜側)の両側から血流が供給されるので真皮の生着率も高くなります。また、真皮移植片・膀胱・子宮を体に吸収されない糸でしっかりと釣り上げるので有効性の高い手術です。
骨盤底筋体操
手術をすぐに行えない場合、温存的治療法を行います。
骨盤底筋体操は、骨盤臓器脱の予防や進行を遅らせるのに有効な温存的治療法です。体操を開発した博士の名前をとって、ゲーゲル体操とも呼ばれています。
骨盤底筋体操の注意点は、効果がえられるまでには数か月以上の時間がかかることです。また、軽度の骨盤臓器脱には有効ですが症状が進行すると体操は行えませんし、効果も期待できません。その場合は、フェミクッションを装着し、臓器を体内に収めた状態で骨盤底筋体操を行いましょう。
体操の方法はとても簡単で、骨盤底筋を締めたりゆるめたりを繰り返すだけです。骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋群を鍛えていきます。
骨盤底筋を締めるときは、おしっこを止めるような感覚で肛門と膣のあたりをギュッと締めます。締めた状態を10秒維持して、その後はリラックスして10秒待ちます。このように、締めた状態と、ゆるめた状態の繰り返しを10セット行うのがおすすめです。
骨盤底筋体操が効果を発揮するためには、継続した取り組みが必要になります。テレビを見ながら、料理をしながらでも大丈夫です。根気よく続けていきましょう。
ペッサリー
ペッサリーとは、膀胱や子宮、直腸など膣から出てきた臓器を人工的に膣内に納める医療器具です。ペッサリーで根本的な治療を行えるわけではなく、保存的治療法のひとつになります。
ペッサリーには、さまざまな形状のものがありますが、日本で一般的に使用されているのはリング状のペッサリーです。病院で医師が適したペッサリーの大きさを確認し、フィッティングします。
ペッサリーは、自己脱着の方法をレクチャーする医療機関もありますが、定期的に医療機関で交換・洗浄するケースがほとんどです。
ペッサリーのデメリットは、異物を体内に入れることによる、感染や膣壁びらんのリスクです。自己脱着の場合は一日の終わりに外して清潔に使うことができるので、リスクは軽減されますが、医療機関で交換する場合は数か月入れたままの状態になるので、リスクが高まります。
フェミクッション
フェミクッションの使用も保存的治療法のひとつで、装着後すぐから骨盤臓器脱の症状を緩和できます。膣口をクッションでおさえ保持することにより、腹圧がかかったときに臓器が外に出ることを防ぐ医療器具です。
フェミクッションは、膣口をおさえるクッションと、それを固定するホルダーとサポーターで構成されています。見た目は下着のようで、他の人に知られにくいよう配慮されたデザインです。
体内に挿入したり留置したりするものではないので、臓器や膣粘膜に負担を与えることはありません。手術の前後や、手術を受けられない、ペッサリーが合わないなどという場合にお使いいただけます。
骨盤臓器脱に関するよくある質問
骨盤臓器脱について、よくお問い合わせいただくことをまとめました。
初期は、自覚症状がない方が多いです。患者様が気付くきっかけとして、「夕方や夜になると股に何か挟まっている感じがする」「入浴時にしゃがんで股を洗うとき、手に何かがあたる」「排便でいきんだ後に、拭くときに何かがあたる」などがあります。
腹腔鏡下仙骨固定術(LSC)やロボット支援下仙骨膣固定術(RSC/RASC)は、実施施設がまだ少ないものの、スタンダードになりつつある新しい術式です。
真皮移植法:永尾法は、永尾医師により開発された術式で、良好な結果を得ています。頻度と再発リスクが高い膀胱瘤手術に最も適しています。
排尿困難があれば泌尿器科がよいですが、骨盤臓器脱はさまざまな症状が混在していることがあります。「ウロギネ科(ウロギネ外来)」でしたら、泌尿器科と産婦人科の境界領域を診ることができます。
「尿が出にくいことがある」「くしゃみや咳で尿漏れをしたことがある」「経腟出産をした経験がある」などで骨盤臓器脱の可能性をチェックすることができます。
性行為自体は可能ですが、挿入時の痛みや悪臭があるので恥ずかしいなどの理由で困難になることが多いです。性行為により、膣粘膜がさらに傷ついてしまう可能性があります。挿入するときは、潤滑ゼリーをたっぷり使うとよいでしょう。性行為の機会がある方はフェミクッションの使用をお勧めします。
保存的治療法フェミクッション
温存的治療のひとつとして、「フェミクッション」の使用がおすすめです。新しい医療機器「フェミクッション」について詳しく紹介します。
特徴
フェミクッションは、患者様がご自身で着脱できる、下着のような感覚で使用していただける医療機器です。履いてすぐから骨盤臓器脱の症状を緩和できます。
異物を体内に入れるわけではなく、やさしいクッションで膣口をおさえ、臓器の脱出を防ぎます。臓器や膣粘膜を傷つけることはなく、洗って清潔に使えるため感染や合併症の心配もありません。
フェミクッションは多くの医療機関で導入されている商品ですが、医療機器の中でもクラスⅠに分類される医療機器で、患者様個人でも購入が可能です。
メリット
フェミクッションには、次のようなメリットがあります。
- 自分で簡単に着脱できる
- 洗って繰り返し使えるので衛生的
- 下着のようなデザインでほかの人に知られにくい
- 感染症や合併症のリスクがない
- ペッサリーがすぐに外れるなど適していない人も使える
- 骨盤臓器脱の手術ができない人も使える
- 装着すればすぐに症状を緩和できる
- 性行為の時、外せるので性交に支障がない
構成品
フェミクッションは、クッション・ホルダー・サポーターを組み合わせて使用します。
クッション
臓器を受け止める役割をします。表面には人体にやさしいシリコーンゴム100%を使用。クッション内部のスポンジで振動や刺激を吸収し、臓器が脱出しないように受け止めます。
S/M/Lと3種類のサイズがあり、膣口や出てきている臓器の大きさによって使用しますが、複数のサイズをお手元に置いておけば、症状に変化があった時に対応しやすくなります。
ホルダー
クッションのずれ防止とおりものや尿漏れの吸収をする役割です。ホルダーにクッションをセットして、そのホルダーをサポーターに固定します。
ホルダーは、洗って繰り返し使える布製ホルダーと、お洗濯が不要な使い捨てホルダーがあります。
布製ホルダーは、表面層・吸収層・防水層・固定するための層の4層でできており、骨盤臓器脱で増えるおりものや、少量であれば尿も吸収します。
使い捨てホルダーは、尿漏れや、漏れがなくても旅行先でお洗濯ができない時などに重宝します。
ホルダーは、クッションのサイズが変わっても同じホルダーをご利用いただけます。
サポーター
ベルトを使って固定する役割です。サポーターは3種類あり、患者様の状況に合わせて使用できるようになっています。
スタンダードなミディータイプは、縦と横のベルトを調整して全体を定位置で固定します。フックを使ったタイプです。
らくらくサポーターは、素早く脱着したい方におすすめです。面ファスナーを使用し前開きになっており、切迫性尿失禁の患者様や、手の不自由な患者様、寝たきりの患者様にもお使いいただけます。
コットンサポーターは、伸縮性のあるコットン生地を使用しています。ジッパータイプで簡単に着脱していただけます。
付属品
クッションを洗うときに使用する洗浄栓が付属しています。
消耗品
尿漏れがある方や旅行のときに便利な「使い捨てホルダー」は50枚入りで別売りの商品です。
フェミクッションの使い方
クッションをホルダーにセットして、ホルダーをサポーターに固定してから装着します。あらかじめ臓器が体内に入っている状態にして、膣口にクッションがあたるように履きましょう。
お手洗いでは、サポーターをおろして排泄し、臓器が出ていなければそのまま装着します。臓器が出ている場合は、必ず体内に入れてから装着です。
一日の終わりには取り外し、お手入れをします。ホルダーとサポーターは手洗いするか、洗濯機で洗って軽く脱水します。クッションは、裏側の空気穴を洗浄栓でふさいで洗ってください。
フェミクッションの保険適応について
フェミクッションの購入は保険適応にはなりませんが、医療機器ですので確定申告時に医療費控除を受けられます。ご購入時の領収書は保管しておいてください。
また、生活保護を受給されている方は、医療機器の購入に対する医療扶助の対象になることがあります。詳しくはケースワーカーの方にお問い合わせください。
フェミクッションについて詳しくは三井メディカルジャパン(旧 女性医療研究所)まで
骨盤臓器脱は、進行すると股のあたりの違和感だけでなく排尿・排泄困難、歩行がしづらいなど、つらい思いをしている人が多い疾患です。人に言い出しづらく受診もためらい、一人で悩む方も多い実情があります。
フェミクッションは、これまでつらい思いをされていた患者様のために、新しい温存的治療法として三井メディカルジャパンが開発した医療機器です。
三井メディカルジャパンのWEBサイト(https://urogyne.jp/femicushion/#howToBuy)や電話、FAXで購入が可能です。Amazonや楽天といったECサイトでの販売もあります。詳しくは、三井メディカルジャパンまでお問い合わせください。