マイクロサージャリーとは

マイクロサージャリーは「微細な外科手術」を意味し、手術用の顕微鏡を用いて1mm以下の血管や神経をつなぎ合わせる難易度の高い手術で、私が長年専門としている分野です。

マイクロサージャリーは、肉眼ではとらえることすら難しい血管や神経をつなぎ合わせたり、感覚や機能を回復しながら移植手術を行ったりするなど、高度かつ熟練した技術によって、さまざまな手術が可能になっています。

本記事では、マイクロサージャリーについて、基礎知識や手術例を挙げながら、詳しく解説いたします。

マイクロサージャリーとは?

マイクロサージャリーは、「マイクロ(micro・微細な)」と「サージャリー(surgery・手術)」からできた言葉で、微細な外科手術のことをいいます。

通常、手術は肉眼で行いますが、マイクロサージャリーでは手術用の顕微鏡や、人間の髪の毛よりも細い針つきの縫合糸を使用します。これらを使って、1.0mmほどの血管をつなぎ合わせるなどの微細な手術を行うのが、私が専門としているマイクロサージャリーの分野です。

手術で顕微鏡が使われたのは、1921年スウェーデン・ストックホルムで行われた耳鼻咽喉科の手術が最初だといわれています。当時の手術用顕微鏡は、片目で見る単眼用のものでしたが、その後使用される器具も大きく進化し、現在は双眼用(両眼)顕微鏡が開発され使用されています。

その後、眼科や脳神経外科でも行われるようになり、1960年にはアメリカで顕微鏡下での血管吻合(ふんごう)手術が行われました。この時の執刀医であったバーモント大学のジェイコブソンが初めて「マイクロサージャリー」という用語を使ったといわれています。

以来マイクロサージャリーは、四肢の血管や神経の修復など、再建外科の分野でも応用されるようになり、今日に至ります。

マイクロサージャリーでは、直径1.0mmほどの血管や神経を縫い合わせる(吻合する)など、非常に繊細な手術が行われます。そのため、使用される器具も繊細で、微小な手術を可能にするために進化してきました。直径0.5mm以下の吻合を行う場合をスーパーマイクロサージャリーと呼びます。

マイクロサージャリーで使用する器具をご紹介します。

針付縫合糸

針は50~100ミクロン(ミクロンは、1000分の1ミリのこと)、糸も10~20ミクロンの太さの大変微細なものが用いられます。人間の毛髪がおよそ150ミクロンほどなので、比較するとその細さがおわかりいただけるかと思います。

手術用顕微鏡

マイクロサージャリーで用いられる手術用顕微鏡は、血管や神経など、肉眼ではとらえにくい臓器や組織を立体的に見ることができ、手術の成功に不可欠です。

手術用顕微鏡下では、血管や神経が10倍から20倍ほどに拡大され3Dで見ることができ、確実につなぎ合わせることが可能になります。

高性能レンズや照明などの進化により、手元が明るく、影がないクリアな画像で確認することができるので、血管や神経などを一本一本分け必要な組織は残すといった、安全で確実な手術ができるのです。

ドプラ(ドップラー)血流計

ドプラ血流計は、皮膚の表面から0.5mmにある毛細血管内の血の流れを、近赤外光を使って測定できる装置です。管を入れたり、皮膚を切ったりすることなく測定できるため、患者様の体に負担が少ない方法になっています。

血流量だけでなく、血球量、血流速度なども確認することができるので、マイクロサージャリー手術で血管吻合後に血流のモニタリングのために使用します。

マイクロサージャリーよりさらに細い血管や神経をつなぎ合わせる、高度な技術が必要な手術がスーパーマイクロサージャリー(超微細手術)です。太さ0.5mm以下の血管や神経などを、0.05mmの専用針を使ってつなぐ手技は、マイクロサージャリーよりさらに高度で熟練した技術が求められます。そのため、この手技を習得し、手術が可能な医師はほんの一握りです。

マイクロサージャリーは、心臓・脳の手術をはじめとして、一般外科、形成外科、眼科、整形外科、腎泌尿器外科、婦人外科、神経外科、口腔外科など、さまざまな分野でその効果を発揮しています。

マイクロサージャリーの難易度

手術は、その難しさや必要な技術度について、A~Eの5段階で区分されています。D群に区分される手術は、専門医や指導医取得者が実施するレベル、E群になるときわめて難易度が高く、国内でもごく一部の外科医または施設でしか実施できない手術とされています。

マイクロサージャリーは、ケースによってはE難度とされる手術があり、使用器具や環境の整った病院で、高度な技術を習得した医師のみが行える手術に区分されています。よって、手術の難易度としては、非常に高いといえます。

マイクロサージャリーが行われるケース

マイクロサージャリーの技術を用いると、血管や神経、リンパ管など、体内の細かい組織をつなぎ合わせることが可能です。そのため、ケガや事故で指が切断された場合などに、再接着手術などに有効で、高い効果を発揮します。

ここで、マイクロサージャリーが行われる手術のケースについてご紹介しましょう。

血管の吻合

マイクロサージャリーで最もよく行われるのが、身体の組織を別の部分へ移植する、または切断された部分の再接着を可能にする「血管吻合」と「神経吻合」です。

血管吻合は、切断された指を元通りにつなげる再接着術のほか、事故や腫瘍の摘出などによって組織が欠損したときに、別の場所から組織を移植する手術をする際に用いられる重要な手法です。

神経の縫合

神経が損傷し、手足や顔面にまひが残ってしまった場合も、感覚や運動機能を回復させるためにマイクロサージャリーの技術が使われます。術者の高い技術と手術用顕微鏡を用いることで、微細な神経をつなぐバイパス手術が可能になります。

損傷が激しくつなぎ合わせることが不可能な場合でも、別の場所から神経を採取したり、人工の神経を使ったりして機能の回復を試みる手法にも、神経縫合が使われています。

再接着・再建外科

事故やケガで切断された指や手、腕を再びつなぎ機能を回復させる手術を「再接着術」といいます。1960年代からマイクロサージャリーが応用されるようになりました。

再接着手術では、血の流れを生かしながら繋ぐことが求められ、1mm前後の血管を正確につなぎ合わせるために、マイクロサージャリーの技術が不可欠です。

また、ケガや腫瘍摘出後に、欠損した組織を再建する「再建外科」の分野においても、マイクロサージャリーの技術が使われています。血管ごとほかの組織から切り取って移植し、欠損した部分へ血管もつなぎ合わせます。

再接着・再建外科においては、指や手がただつながるだけではなく、感覚や運動機能などが元の状態に近いところまで回復することが望まれます。マイクロサージャリーの技術を使って、筋肉や骨のほか、血管・神経・リンパ管などをつなぎ合わせ、それらの機能が回復するようにします。

 

マイクロサージャリーで行う手術例

上記のようなマイクロサージャリーを用いた手術は形成外科の分野ですが、最近では整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、眼科など様々な領域で行われています。

このほかにも、マイクロサージャリーの技術は、生殖医学の領域、特に男性不妊領域においても需要が拡大しています。私が執刀医を務める銀座リプロ外科では、マイクロサージャリーの技術を用いて、下記の手術を行っています。

銀座リプロ外科については、こちらのページ(医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科)をご覧ください。

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は、精巣やその上部の精索部に、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)がみられる症状のことで、一般男性の約15%、男性不妊患者では40%以上に認められ、男性不妊の原因の1つとなっています。

精索静脈瘤は、自覚症状が少なく治療されずに放置されているケースが多くあります。しかし、自然に治ることはなく、時間が経つほど症状は悪化し進行してしまいます。

精索静脈瘤は手術で完治を目指せる疾患です。独自の「ナガオメソッド」による手術では、動脈・リンパ管・神経・逆流静脈を一本一本確実に分け、必要な組織は残し、原因となっている逆流静脈のみをすべて止めることが可能になっております。

ナガオメソッドは、顕微鏡下でスーパーマイクロサージャリー技術(0.5mm以下の吻合技術)を用いて行う、安全で確実な手術法です。大事な組織が温存されるので、血流障害や、精巣委縮などの合併症の発生も極めて低く、再発リスクも0.5%以下の低い水準となっています。手術の結果、精索静脈瘤が治癒し、精液所見にも改善がみられる患者様が多くいらっしゃいます。

ナガオメソッドによる精索静脈瘤の手術についてはこちら(日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド)もご覧ください。

動脈温存パイプカット手術(精管結紮術/精管切断術)

パイプカット手術は、男性避妊手術のひとつで、精子の通り道である精管(パイプ)を結紮(けっさつ 糸で結んで縛ること)または切断することによって、精巣から精子が精液内へ送り出されないようにする手術です。

銀座リプロ外科では、「パイプカット再建術」をメインで行っているので、精管を切断せず、温存しながら結紮して精子が流れ出るのを止めます。

パイプカット手術では、陰嚢にあつまっているたくさんの血管や神経、筋肉、精管などの中から、確実に精管を見つけ結紮する必要があります。手術用顕微鏡下を使用することで、手術部位がクリアになり、結紮するべき精管を確実に見つけることができます。

さらに、精管の動脈は温存するので精巣の血流が保たれ、男性ホルモンが低下することを予防できます。精管神経も温存するので、術後の痛みもかなり抑えられます。

マイクロサージャリーの技術によるパイプカット手術は、より小さい範囲で手術を行うため、出血や痛みを抑えられ、日帰りでの手術を可能にしています。

パイプカット再建術

パイプカット手術後に、再度子どもをもうけたいと希望される場合に、精管を元に戻すために行う手術が「パイプカット再建術」です。マイクロサージャリーの技術で、精管閉塞部を再吻合することによって、再度精液の中に精子が出現するようにします。

精管の吻合は大変高度な技術が必要なため、パイプカット手術は行っていても、パイプカット再建術は行わない(行えない)という病院もあります。

銀座リプロ外科でのパイプカット再建術は、マイクロサージャリーの技術を用いて行うので、大変小さい傷で痛みも少なく、日帰りで手術を行うことができます。また精子の出現率は91%、精液正常化も47%と、大変高い治療実績を残しています。

銀座リプロ外科のパイプカット再建術については、こちら(パイプカット再建 / 元に戻す(日帰り顕微鏡下パイプカット再建術))もご覧ください。

リンパ管細静脈吻合術(LVA)

がんの手術や放射線治療によって、リンパ液の流れが悪くなることが原因で、腕や背中、足などに浮腫(むくみ)が現れる症状をリンパ浮腫といいます。 リンパ浮腫は水分によるむくみとは違い、リンパ液の流れが悪くなることでおこる疾患です。治療には、マッサージや弾性ストッキングの着用などで症状を緩和する「保存的治療」と、リンパ管の流れを新たに作り、リンパ液の流れをよくする「外科的治療」があり、積極的な治療をする場合は、外科的治療の「リンパ管静脈吻合術(LVA)」を行います。 リンパ管静脈吻合術では、リンパ管や静脈の位置を正確に特定し、リンパ管と皮下静脈をつないでバイパスを作ります。直径0.5mmほどの微細なリンパ管を縫い合わせるため、顕微鏡下にてマイクロサージャリーの技術を用いた手術を行います。 直径0.05mmほどしかない細い針を使って縫合するため、非常に高度で熟練した技術が必要となる手術です。 銀座リプロ外科の、リンパ管静脈吻合術については、銀座リプロ外科のページ(リンパ浮腫の治療・手術(日帰りリンパ管静脈吻合術・LVA))もご覧ください。

このように、マイクロサージャリーの技術を用いた手術は、高度かつ難易度の高い手術を可能にしており、生殖医療の分野や、リンパ浮腫の治療などでも需要が高まっています。

私が執刀医を務める銀座リプロ外科では、主に上記のような手術を行っております。男性不妊の原因となる精索静脈瘤やパイプカット再建術で悩んでおられる方、リンパ浮腫の治療をご希望の方は、ぜひ一度銀座リプロ外科へご相談ください。

銀座リプロ外科のホームページはこちら(https://ginzarepro.jp/)